- 2021.07.09
- 想像力を持って、この堤防から飛ぶ by マヒトゥ・ザ・ピーポー
明石海峡が見える。瀬戸内の海を歩いていた。今、わたしの上には雨が降っている。傘に当たる雨粒の音の連続。晴れた昨日に見た海と表情はかわり、重いため息を孕んでいる。
映画の告知をしてからの日々はさらに目まぐるしく、その回転の渦に酔ってしまう。わたしは傘を閉じ、防波堤の上に寝転んで雨を浴びてみた。顔の上を叩く雨と薄目からのぞく灰色の空、重たくなっていく衣服。時代の熱病に犯されて熱った体をさまそう。
この映画の出演のオファーを、脚本を読んで受けてくれた森山未來さんは開口一番で海の話をした。神戸に住んでいた頃、この海から遠くを見ていたのだろう。これからのこと、これまでのこと、人は人生の岐路に立つ時、海を見る。ここではないどこかへと繋がっている海に引かれた水平線、それをゆっくりとまたぐ船を見て、その向こう側に想いを馳せる。いつも迷っているわたしは、いつも海を探している。
わたしの唯一の出演映画、豊田利晃監督の『破壊の日』。現場は想像力に満ちていた。それぞれのプロフェッショナルが才能を持ち寄り、空間に新たな息吹を与える。文字として紙の上に書かれていた幻想が、本当となって現れる魔法の瞬間を目撃したわたしはもう落ちていた。何に?それはもう、恋に。
わたしは新たな出会いを求めるべく堤防に立ち、主役を含めたキャストのオーデションを開催する。こちらが海を見るように、対岸で堤防からこちらを見ているあなたと出会うべくこのような方法をプロデューサーに提案した。出会いはいつも突然で、唐突な驚きに満ちている。伏線なんかクソ。何を隠そう、わたしはその恩恵に生かされているしね。実際バンドのベース、ヤクモアとはそうやって出会ったし、出会ったことの奇跡はフジロックできっちり証明することになるから、まあ耳鳴り共々覚悟しておいて欲しい。おっと、脱線したので映画の話に戻す。
きっとどこかで、この『i ai』という映画の放つ匂いを感じ取っている人は居るはずだ。傘のない時に雨が降る人へ。海の向こうでも同じ雨に濡れている人はいるよ。
出会うべき人というのは必ずいる。垣根など蹴落として、きっと出会って欲しい。もちろんすでに出会っている役者も参加してほしいね。
募集するのはわたしの頭の中を再現してもらうための道具ではなく、新しい絵を共に想像できる個別のあなた自身だ。いい出会いがあれば、脚本が変わり、性別や話す言葉が変わってもいいと思っている。この映画を踏んで、新しい芽が開いていくような素晴らしい出会いを想像する。人と人が出会うことに飽きることはないね。
つくづく映画は総合芸術だと思う。それぞれの持っているものの力をかけ合わせた美しい嘘なのだと思う。その役割に名前のある監督や、役者、照明やスタイリストなどもあれば、まだ名のついていない関係性の名前だって存在する。総合芸術というからには総合的に募集したい。得意なことで関わる。コロナ禍で打ち上げられずにくすぶってる花火、ネオン管、色を塗ったり燃やしてもいいバンや、体の浮くくらい大きな風船。花を売るロバ、ぶっちゃけ体裁とかどうでもいいし、ルールも知らない。そもそも知りたくない。全感覚に募集!
もちろんクラウドファンディングに参加することだって関わることに他ならない。内情を話すと、このお金の集まり具合で明石ロケができるかどうか、その日取りが変わる。この潮騒の匂いと少しでも共にいたいと切に願うから募金や拡散!この関わりだって真に願っている。
今回のキャストオーデションはプロデューサーと相談して、あえて第一次選考には私は参加しない。思うことがあり、然るべきタイミングからわたしは参加する。会えるのを楽しみにしてる。
堤防から立ち上がると雨で服はぐちょぐちょに濡れていて、気を許すとこのままでは風邪をひいてしまいそう。バカ。体も大切にしよう。できるだけ野菜を食べるぞ。
顔の上を叩く雨足はさらに強くなり、海が荒れ始める。約束された正解なんて蹴落として、この航海を悔いの残らぬよう。人生って言葉は退屈なくせに、何かを決断するのに時間なんてないんだから。
想像力を持って、この堤防から飛ぶよ。
マヒトゥ・ザ・ピーポー